このあいだの日曜、直近で友人の結婚式や二次会が続けて開かれるので、いろいろ調達しようと買い物に出かけた。買い物に出かけると大体習慣で本屋に寄るので、その時に目に入った『イン・ザ・プール』を衝動買いした。
- 作者: 奥田英朗
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2006/03/10
- メディア: 文庫
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2009年にアニメ化されたものの原作小説。知ってはいたけど、アニメは見てない。
だいぶざっくり言うと精神科医・伊良部一郎によるトンデモ精神治療物語。本を読むのが遅い私でもするする読めた。ここ最近はずっと小説を読んでなかったのもあって、すごく面白かった。
全部で五話あって、それぞれ一話完結になっている。
- イン・ザ・プール
- 勃ちっ放し(アニメ第二話)
- コンパニオン
- フレンズ(アニメ第六話)
- いてもたっても(アニメ第八話)
どれから読み始めてもいい。前提知識もいらない。本当にあっさり読める。
『勃ちっ放し』と『いてもたっても』以外、基本的に患者は自分が病気だという自覚がない。動悸や妙な不安感などの症状は現れてるが、体調が悪いなーくらいにしか思ってなくて何が問題なのかがわからなくなってしまっている。例えば『コンパニオン』は妄想癖の女性の話で、いもしないストーカーのことで頭が埋め尽くされて動悸が激しくなったり外出できなくなってしまう話だが、本人は本気で自分の美貌に気づかない男性はいないと思い込んでいて、周りの忠告を聞き入れる耳も全くない。自意識過剰だよと友人に諌められても、私に嫉妬していると返してしまう。常識が通用しなくなっている。
でも不思議とどの患者もふわふわと吸い寄せられるように伊良部の元に向かってしまう。読者目線から見ると真面目に神経科に通ってて「ここに来ると落ち着く」という考えが頭に浮かんでいる時点で異常なんだが、患者本人は治療されてる気持ちもなくて、カウンセリングを受けている自覚もない。色白の太ったおっさんに会いに行ってるだけだと、これまた本気で思ってる。読者と患者のギャップがすごい。そこが面白い。
面白いだけではない。普通に過ごしてるつもりでも、いつの間にか何かが過剰になる経過がはっきり分かる流れには恐怖を感じる。『フレンズ』なんかはその典型で、自分は人よりちょっとメールの回数が多いだけくらいに思ってたところから、ケータイ手放しただけで痙攣することに気づくまでが結構生々しい。今なら例えばツイッター廃人がふぁぼやリツート稼ぐためにずっとTLになんかつぶやいてるのが当てはまると思う。ケータイ落としても痙攣なんかしないと思っていても、ツイッターが今この瞬間になくなったら発狂する人は少なくないんじゃないか。ていうかそれ、ツイッターなくならなくても既に狂ってるけどね、という話。
どの話も患者の一人称視点で語られている。だから患者がどう思っているかに焦点が当てられた話になっている。私の場合『いてもたっても』の心配性は、ちょっとわかると思った。タバコは吸わないしガスの元栓閉め忘れたからって全焼になる心配なんてしてないけど、まぁ思うところはある。でもその心配性のおかげで患者は自分の身を助けてもいて、これも私自身思うところある話だった。これは他人事ではないのだと感じる。
「やりすぎじゃない?」という状態を自覚していきたい。難しそうだけど、なるべく精神科にお世話になりたくないし。